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さつま王子 第1話  「辺境の村」その2 15:54


 「芋、食べちゃえばいいじゃん」


 その瞬間、話は一気に戻った。左吉は、鉄鋼(有)が創り出した、その濃密な空気がいっぺんに解放するのを感じた。そこに左吉は、王子のすごみを見て取る。この王子、本格的にバカだ。しかし、バカだからこそ出来る事がある。支配できる空気がある。左吉は、そう確信していた。この王子は、その子供であるが故のピュアな推進力と自身が王子であるというその特権的な立場を無意識的に使って、さつまの拡大に貢献をしているのだ。12歳の子供が、そういう事をやってのけているのだ。つくづく、政治というのは「結果」なのだと左吉には思えてならない。12歳で結果を出していく王子への驚きが止まらない。その驚きを増幅させるべく繰り出される王子のストレートな言葉の数々。王子は言葉に愛されている。それが故に、人を動かす。人の上に立つものの本能的な性。それが左吉には愛しい。この時また、左吉は、自身の立場をわきまえ、王子に一生ついていく事を固く心に誓うのであった。

 「結果として」、王子の一言は、いぶし鉄鋼(有)の命を救った。左吉は、王子の手前、鉄鋼(有)を、芋を食わせる前に斬るわけにもいかなくなった。それに左吉は、ホッと安堵した。王子は、図らずも有能な一人の国民の命を救ったのだ。そういう「結果」を生み出したのだ。その結果を生み出す無垢な言葉を発する本能。左吉は、自身がそれなりに有能でもある為、自身が王になる夢を持たぬでもなかったが、本物の王になるべき人物の前では、ただただ国を想い、お目付け役に徹するのが分相応だと感じていた。それほどに左吉は王子の未来に賭けていた。この王子は的確に仕事をしてみせている。そして、今回もまた仕事をし、有能な男を一人、この国の為に働かせる方向へと導く事になるだろう。

 無論、この事は、聡明なる、いぶし鉄鋼(有)も同様に感じていた。目の前にいる王子は、丁度、自分の次男坊と同じ頃にも関わらず、その歳の人間が政治をやってのけている事への驚き。おそらく、この王子は意図して自分を救ったのだ。左吉と違い、鉄鋼(有)はそうも考えていた。そこから鉄鋼(有)は目の前の事態を打開する方策を探る。この場面に的確に対処しようと頭を巡らしだす。この王子となら、もしかしたら、交渉になるやもしれない。鉄鋼(有)は、瞬時にさつま芋という新たな存在に頭をめぐらせると同時に長年培ってきた自らの農地をいかに荒らさずに新しい作物と共存させるか?その事だけに考えを集中しだした。瞬間、新たな道を思案しはじめる。

 ところがである。鉄鋼(有)のその想いは、驚くべき、本当に驚くべき言葉によって、一瞬にして瓦解するのであった。


 「芋、まっじーじゃん。うえ〜。」


 そこには、一口かじられたさつま芋を手に持つ、いかにも悪ガキそうな少年の姿があった。いぶし鉄鋼(有)は、その姿を見た時、その冷静さを失い、かつてない程、狼狽し、頭が混乱する。



 いぶし銀次郎。


 王子の駕籠から芋をすり抜き、その芋を食ってみせたその少年の名は、いぶし銀次郎。いぶし鉄鋼(有)の次男坊、いぶし銀次郎、その人であった。

 鉄鋼(有)は戦慄する。何故、ここに息子が来てしまったか。何故、そのように無垢な侮蔑の言葉を吐いてしまったか。我ら、親子ともども、これでは打ち首は免れまい。延命の機会が自分の息子によって打ち破られる無念と怒りを感じながら、同時に静かに鉄鋼(有)は自分の心を落ち着かせ、息子だけでも救う手だてを思案しはじめた。

 左吉もまた無念を思う。これは斬らざるを得ない状況だ。おそらく彼らは親子なのだろう。あんな優秀な親から、このような子が産まれる無念。左吉は、王子の顔を一瞬ちらりと伺い、王子の顔が自分を止めるものでもないのを確認したのち、親子の顔を直視せぬように目を伏し、腰の業物に手をかけ、目の前の親子を瞬時に切り倒そうと体を動かしはじめた。


 ・・・・・・・


 さつま王子といぶし銀次郎。共に12歳のこの少年二人は、この時、はじめて出会い、やがて、大きな仕事を為していく事になる。この二人が出会った事によって、歴史は新たな1ページを生み出し、日本は大きく流転する。それは本当に激動の、誰にも思いもよらぬ新たな1ページのはじまりであった・・・・・・


・・・・・・・・


 そのはじまりが、自らの剣によって断たれていたら・・・。のちの左吉は、そう回顧し、恐ろしくなる事がある。この時、左吉は、本気で剣を抜き、親子の首に手をかけようとしていた。しかし、それは思いもよらぬ事態によって回避されたのだから歴史というのは面白い。その思いもかけぬよらぬ事態とは何か。


どーーーーーーーーーーーーん!!!


さつま芋の爆発。


 なんと、さつま芋が爆発するという思わぬ事態がこの時、起こったのだ。


 その時、確かにさつま芋は爆発した。それは思いもよらぬ程の大爆発であった。銀次郎は、左吉がこちらに剣を向けるのを見て、手に持つ芋をとっさに上に放り投げた。瞬間、そのさつま芋が轟音を立てて、爆発した。これには誰もが驚いた。投げた銀次郎も驚いた。親の鉄鋼(有)も驚いた。さつま王子だって驚いた。当然、左吉も驚いて、その鞘から水平に抜き出された一撃必殺の剣が普段と違う軌道を辿りだし、まるで見当違いの方向に空を切る始末であった。しかも、勢い余った左吉は、そのまま剣の勢いで倒れ込む始末であった。

 この時、左吉は、その切っ先を再び親子に向ける事を忘れ、転倒による痛みも忘れ、ただただ、その事態に重大な事実を思い知らされ背筋に汗をかくのであった。そうか。我々は、彼らは、王は、そんな事をしようとしていたのか。そんな、激動の時代を自ら引き受けるような、そんな事を・・・・・・なんと・・・・・


 その轟音は戦乱の世の幕開けにふさわしい打ち上げ花火であったと言えるかもしれない。いつも、人の世は、事態を予測するのは不可能なものであり、人を面白おかしく、あらぬ方向に連れていってしまうものなのだろう。

 こうして、さつまの命運は一発のさつま芋によって大きく変わろうとしていた。



 傍ら、さつま王子は、たのしそうにニヤニヤ笑っていた。爆発の時さえ、驚きの表情を見せていたが、やがて、その表情もゆるみだし、笑みがどんどんどんどん増殖していった。爆発がたのしくてしょーがないといった風情だ。そんなさつま王子に眼光鋭くガンをつける、いぶし銀次郎。そのいぶし銀次郎を救い出すべく、冷静に事に対処する、いぶし鉄鋼(有)。いぶし鉄鋼(有)は、ここにおいて、ただ一人冷静だった。その意味で鉄鋼(有)は。この時、左吉を遙かに越えていた。いぶし鉄鋼(有)は、轟音とともにすぐさま走りだした。走って、銀次郎を抱え、そのまま一目散に逃亡した。鉄鋼(有)は、このまま村から逃亡をはかるべく、妻の鈴がどこにいるのか?を気にかけ、辺りを見渡した。一家ともども、どこかに逃げ仰す算段をつけはじめた。追う左吉。「植えればいいのに」とつぶやくさつま王子。さつま王子は、この地にさつま芋を植えるのを鉄鋼(有)に任せたいのは山々だったが、逃げてしまっては仕方ない。その逃げた鉄鋼(有)を王子は追わず、やおら、駕籠のさつま芋を取り出しはじめ、一人、稲をひっこぬき、代わりにさつま芋を植えていくのであった。


 こうして、さつまはまた稲作農地をさつま芋畑に転換する事に成功する。左吉と離れてしまったさつま王子は、続けざまに援軍を求む狼煙を挙げて、この地にさつま芋畑を作るプロたちを直ちに集合させはじめるのであった。


 第2話へつづく

| さつま王子 | comments(0) | - | posted by bukai -
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